「くずきり」、「季すずやか」等に使用している葛は、能登半島に古くより伝わる名品「宝達葛」です。毎年1月から春先に向けた厳冬に、ミネラルが豊富で冷たい宝達山の伏流水によって手作業で作られています。粘りが強くなめらかな舌触りで、加賀藩御用葛としても重用されたこの宝達葛には450年以上の歴史があります。宝達山が藩の御用金山だった頃に鉱夫たちの健康管理に役立てようと、滋養食として利用し始めたのが宝達葛の起源と言われています。江戸時代には加賀藩から徳川幕府への献上品としても用いられ、また、明治時代には当時皇太子であられた大正天皇に、宝達葛が献上された歴史も残っています。長い歴史に育まれたこの伝統の名品を森八は今も大切に使い続けています。
徳島県産の上質な和三盆糖を使用しています。和三盆糖とは、徳島と香川県の一部で現在も栽培されている在来品種である「竹糖」と呼ばれる砂糖きびを原材料に、現在も丹念な手作業で作られている希少な国内産の砂糖です。上白糖やグラニュー糖とは異なる品種である「竹糖」は、背丈も比較的低く太さもかなり細いため、大量生産には向かない品種ですが、砂糖きびそのものの風味が豊かで、上品な甘さと後味の良さを持つ貴重な伝統産品といえます。
森八では商品ごとにすべての原材料を吟味し、数十種類の餡を製餡段階から丹念に炊き分けています。その代表的な原料の一つが能登大納言小豆です。恵まれた能登の気候、風土の中で育ったこの小豆は、全国に数ある大納言小豆の中でも、風味の良さ、粒の大きさ、そして宝石のような鮮やかな赤い色が特徴です。収穫は手作業が中心で、ひとさやずつ丁寧に収穫し、選別します。炊いた時にふっくらと皮が柔らかくなり、食べても皮が口に残らず、味・香りなどの風味も優れた高品質な小豆です。江戸時代初期以来、加賀藩の庇護のもと守り育てられた400年の歴史を持つ伝統の名品です。
森八の上生菓子は、ほぼすべてに紅花、クチナシなどの天然色素を使用し、四季折々の自然の色を表現しております。中でも「長生殿」や「千歳」にも使用しております紅花色素は、江戸時代においては「紅一匁(もんめ)、金一匁」と言われ、金と同等の価値が付くほど大変重宝されたと言われています。天然色素がかもし出すほんのりとしたやさしい自然の色合いが和菓子の美しさを引き立てます。
森八では商品ごとに異なる数十種類の餡を炊き分けていますが、多様な素材の組み合わせがある中で、古くから「隠し味」として使用してきたのが能登に産する天然の粗塩です。
奥能登の珠洲で永年引き継がれているこの塩は、「揚げ浜式製塩法」という伝統技法にて400年以上もの長きにわたって受け継がれている伝統産品で、海水の汲み上げ、塩田への散布、さらに釜焚きから精製まですべて手作業で行われています。この伝統製法により、ミネラル分が多く味がまろやかな風味の天然塩が作られます。森八が永年続けてきているひそかなこだわりの一つと言えます。
森八で使用する落雁粉、求肥、もなかの皮等には、北陸の豊かな土壌と良質な水で育ったもち米を使用しています。和菓子に仕上げた時の味や粘り、風味の良さを基準とし、商品や季節、用途に応じて厳選し、使用しています。
森八の菓子造りに使用する水は霊峰白山の伏流水が流れ込む水系が地下をつたって湧き出る天然水を使用しています。ミネラル分が豊富で餡の独特の風味と色を作り出すには欠かせない、まさに恵みの水。黒羊羹の美しい色艶を生み出す自然の恵みに感謝せずにはいられません。